毎日何気なくスクロールするスマートフォンの画面。そこに映し出されるのは、まるで映画のワンシーンのような完璧な恋愛ストーリーの数々です。休日のカフェでほほ笑みながら寄り添うカップル、誕生日に仕掛けられた緻密な演出のサプライズ、記念日に贈られた思い出の詰まったアルバム。そして、それらの投稿に付けられる「#理想の彼氏」「#カップルゴール」といったハッシュタグの数々。
こうした投稿を目にするたび、あなたの心の中にモヤモヤとした感情が湧き上がってきませんか?「私の恋愛って、なんだかイマイチかも…」「もっと素敵な関係を築けているはずなのに」「どうして私たちはあんな風になれないんだろう」。そんな思いに苛まれた経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。
理想の恋愛って、本当に幸せをくれる?
その”完璧な恋愛”、ちょっと疲れていませんか?
私のもとには、日々様々な悩みを抱えた方々が相談に訪れます。その多くが、SNSで見る「理想的な恋愛」と現実のギャップに苦しんでいる人たちです。特に印象的だったのは、都内の大手企業で働く32歳の女性、仮に彼女をAさんと呼ばせていただきましょう。Aさんは、こんな言葉を私に投げかけてきました。
「SNSを開くたびに、自分の恋愛がダメダメに思えてきて…。友達のストーリーを見ると、毎週末素敵なデートを楽しんでいて、お互いへの愛情表現も完璧で。でも私は、休日は疲れて家でダラダラすることも多いし、彼との会話だって、たまに気まずい沈黙があったり。もっと素敵な彼女になれるはずなのに、なんで私にはできないんだろうって」
Aさんの悩みは、決して特別なものではありません。むしろ、現代を生きる多くの人々が共有している悩みと言えるでしょう。完璧な関係性を求めるあまり、かえって自分を追い詰めてしまう。そんな状況に陥っている方が、実に多いのです。
私がカウンセリングを始めて10年以上になりますが、ここ数年、このような相談は急増しています。その背景には、SNSの普及による「理想の恋愛像」の氾濫があると考えています。以前なら、身近な友人や家族、あるいはドラマや雑誌の中の限られた「理想像」との比較で済んでいたものが、今では世界中の「理想的な瞬間」が、24時間365日、際限なく私たちの目に入ってくるようになったのです。
ある20代後半の男性クライアントは、こんな風に語っていました。
「僕の彼女は本当に優しくて、家庭的な人なんです。でも、インスタグラムを見ていると、同年代のカップルが海外旅行に行ったり、おしゃれなレストランで食事をしたり…。そういう投稿を見るたびに、もっと刺激的なデートをするべきなんじゃないかって考えてしまって。でも実際、僕たちは共働きで忙しいし、そんな余裕もない。それなのに、SNSを見るたびに焦りを感じてしまうんです」
このように、SNSで見る「理想の恋愛」と現実のギャップに苦しむ人々が、確実に増えているのです。
コミュニケーションで悩む会社員のあなたへ。
さらに興味深いことに、仕事ができる人ほど、恋愛でのコミュニケーションに悩みを抱える傾向があることが、私の経験から見えてきました。特に、大手企業や外資系企業で活躍するビジネスパーソンに、その傾向が顕著に表れています。
例えば、外資系コンサルティング会社で働く35歳の男性クライアント。彼は仕事では常にロジカルで的確なコミュニケーションを取れる人物でした。クライアントとの重要な商談も、チーム内でのプレゼンテーションも、完璧にこなす。そんな彼が、恋愛となると途端に言葉が詰まってしまうのです。
「仕事では、どんな難しい場面でも適切な言葉が見つけられるんです。でも、彼女と話すとき、特に気持ちを伝えようとするときは、なぜか上手く言葉が出てこない。かえって論理的に説明しようとしてしまって、『あなたはいつも理屈っぽい』って言われてしまうんです」
この悩みの根底には、実は深刻な問題が潜んでいます。それは、ビジネスの場で求められるコミュニケーションと、恋愛で必要なコミュニケーションの質が、根本的に異なるという点です。
ビジネスの現場では、「効率性」「論理性」「正確性」が重視されます。問題を分析し、最適な解決策を提示する。感情は可能な限り排除し、客観的な判断を下す。そうした姿勢が評価されるのです。
一方、恋愛における理想的なコミュニケーションとは、まったく異なる性質を持っています。そこでは、「共感性」「感情の機微」「あいまいさの受容」が重要になってきます。相手の気持ちに寄り添い、時には言葉以外のサインを読み取り、完璧な解決策を提示するのではなく、共に考え、感じることが求められるのです。
この違いを理解できず、ビジネスで培った「完璧主義的なコミュニケーション」を恋愛の場面にも持ち込んでしまう。それが、多くのビジネスパーソンが陥る落とし穴なのです。
プライドが邪魔して、恋愛が進まない理由。
先ほどお話ししたビジネスパーソンの例に共通しているのは、実は「プライド」という要素です。仕事で高い評価を得ている人ほど、恋愛でも同じように「完璧な結果」を求めてしまう傾向があります。
ある28歳の女性クライアントは、こんな悩みを打ち明けてくれました。
「私、仕事では後輩からも頼られる存在なんです。プレゼンも企画も、いつも高評価をもらえる。でも、好きな人の前に行くと、急に自分に自信が持てなくなって…。『こんな言い方、ダサいかな』『もっと魅力的な返事があったはずなのに』って、後から後から考えてしまって。結局、素直な気持ちが伝えられないまま、関係が進まないんです」
このケースで特徴的なのは、「失敗が許されない」という強迫的な思考パターンです。仕事での成功体験が、かえって恋愛での自然な感情表現を妨げているのです。
別の34歳の男性クライアントは、こう語っています。
「僕は営業職で、どんな難しい商談でも成約に持ち込める自信があります。でも、好きな人を食事に誘うとき、断られるかもしれないっていう不安が大きすぎて…。完璧なタイミングと完璧な言葉を待っているうちに、チャンスを逃してしまうんです」
こうした事例に共通しているのは、「プライドが高い」という特徴です。しかし、ここで言う「プライドが高い」とは、必ずしもネガティブな意味ではありません。むしろ、それは自分の能力への自信や、高い目標を持つことの表れとも言えるのです。
問題は、そのプライドが「完璧でなければならない」という強迫観念に変質してしまうことです。特に、以下のような思考パターンに陥りやすい傾向があります:
「この程度の言葉選びじゃ、相手に失望されるんじゃないか」
「もっと魅力的なアプローチができるはずなのに」
「こんな中途半端な告白じゃ、プライドが許さない」
「相手の期待に応えられる自信がないから、一歩を踏み出せない」
では、こうした状況から抜け出すために、私たちに必要なものは何なのでしょうか。
理想を少し手放せば、恋愛はもっと楽になる
完璧を求めるほど、うまくいかないワケ。
完璧主義は、時として私たちの最大の敵となります。特に恋愛の分野では、その傾向が顕著に表れます。なぜなら、恋愛とは本来、理性や論理では割り切れない、感情の機微や予測不可能性を含んだものだからです。
ある40歳の女性経営者は、カウンセリングでこんな気づきを語ってくれました。
「私、会社では必ず段取りを組んで、リスクを最小限に抑えてから行動するんです。それが成功の秘訣だと思ってきました。でも、恋愛でも同じように完璧を求めすぎて…。デートの計画も、会話の内容も、全部事前にシミュレーションしようとしていた。そうしているうちに、相手が離れていってしまったんです」
このケースで興味深いのは、仕事で成功をもたらす「完璧な準備」という姿勢が、恋愛ではかえってマイナスに作用してしまったという点です。
実は、完璧を求めることには、次のような問題点が潜んでいます:
第一に、それは自然な感情の流れを妨げてしまいます。事前に計画された「完璧な」シナリオに縛られることで、その場の空気や相手の反応に柔軟に対応できなくなってしまうのです。
ある32歳の男性クライアントは、こんな経験を語ってくれました。
「プロポーズの計画を立てるのに3ヶ月かけたんです。レストランの選定から、指輪の準備、タイミング、言葉選び…。でも当日、彼女の様子がいつもと違って見えて。どうやら仕事で大きな問題を抱えていたみたいで。でも僕は計画通りに進めることしかできなくて…。結果的に『あなたは私の気持ちを全然わかってくれない』って言われてしまったんです」
第二に、完璧を求めることは、相手への過度な期待にもつながります。「理想の恋人」「理想の関係性」というイメージに現実を当てはめようとするあまり、相手の個性や、関係性の自然な発展を見失ってしまうことがあるのです。
あるカップルカウンセリングでは、こんな会話が交わされました。
彼:「僕は、お互いの気持ちをちゃんと言葉にして確認し合うべきだと思うんです」
彼女:「でも私は、いちいち言葉にしなくても分かり合えることが大切だと思ってて…」
彼:「それじゃあ誤解が生まれるかもしれない。完璧なコミュニケーションのためには…」
彼女:「その『完璧』にこだわるところが、私には息苦しいの」
この事例からも分かるように、「完璧なコミュニケーション」を求めることが、かえってコミュニケーションを阻害してしまうという皮肉な結果を招くことがあるのです。
第三に、完璧主義は「失敗」への過度な恐れを生み出します。その結果、チャンスがあっても一歩を踏み出せない、自然な感情表現を躊躇してしまう、といった状況に陥りやすくなります。
“ちょうどいい”を見つける3つのコツ。
完璧な恋愛が存在しないことは、頭では理解していても、それを心から受け入れることは簡単ではありません。しかし、これまで私が関わってきた多くのクライアントたちは、「完璧」ではなく「ちょうどいい」関係性を見つけることで、より豊かな恋愛を実現してきました。
ある29歳の女性クライアントは、こんな気づきを得ています。
「私、昔は『相手の言葉の一つ一つに深い意味があるはず』って考えていたんです。LINEの返信が遅いのも、既読スルーも、全部何か意図があるんじゃないかって。でも、カウンセリングを通じて、『相手にも仕事があって、忙しい時期もあるし、ただ単に疲れていることもある』って当たり前のことに気づいたんです。それからは、一つ一つの出来事に一喜一憂しなくなって、関係が随分楽になりました」
この事例が示唆するように、「ちょうどいい」関係性を見つけるためには、いくつかの重要なステップがあります。
まず第一に、「相手も完璧ではない普通の人間である」という当たり前の事実を、心から受け入れることです。
ある35歳の男性クライアントは、こう振り返ります。
「僕は長年、『理想の彼女』像を追い求めていました。仕事ができて、料理も上手で、センスも良くて…。でも実際に付き合ってみると、彼女にも苦手なことがあったり、調子の悪い日があったり。最初はそれが受け入れられなくて苦しかったんです。でも、自分だって完璧じゃないのに、相手にだけ完璧を求めるのはおかしいって気づいて。それからは、お互いの『できないこと』を補い合える関係になれました」
第二のポイントは、「比較」から自由になることです。
SNS時代を生きる私たちにとって、これは特に重要なスキルとなります。ある33歳の女性クライアントは、このような体験を語ってくれました。
「友達のインスタを見ると、毎週末旦那さんとおしゃれなカフェに行ったり、話題のスポットに出かけたり。『私たちもあんな風に過ごさなきゃ』って焦っていました。でも実は、家でのんびり過ごすのが好きな私たち。無理に外出する必要なんてなかったんです。今は『自分たちらしい休日の過ごし方』を大切にしています」
そして第三に、小さな進歩を認めることの重要性です。
これは特に、完璧主義的な傾向が強い方に意識していただきたいポイントです。ある38歳の経営者の男性は、こんな発見をしています。
「以前の私は、恋人との関係も仕事と同じように『結果』だけを重視していました。『もっと良いデートプランを立てられたはず』『もっと素敵なプレゼントができたはず』って。でも今は、一緒にいる時間を楽しむことに焦点を当てるようにしています。そうしたら、相手の些細な変化や喜ぶ表情にも気づけるようになって。実は、そういう小さな発見の積み重ねが、関係を豊かにしてくれるんだって分かったんです」
自分を責めない恋愛の進め方。
完璧主義の最も深刻な弊害の一つが、自己否定的な思考パターンです。特に、仕事で高いパフォーマンスを発揮している人ほど、恋愛面での「失敗」を必要以上に重く受け止めてしまう傾向があります。
ある31歳の女性マネージャーは、このように語っています。
「私、部下20人を抱える立場なんです。普段は冷静に判断できて、的確な指示も出せる。でも、好きな人の前では急に子どもみたいに不安になって…。『こんなことも言えない自分はダメだ』『もっとしっかりしなきゃ』って、自分を追い詰めていました。それが相手にも伝わってしまって、関係がどんどん窮屈になっていったんです」
この事例で特徴的なのは、仕事での成功体験が、かえって恋愛での自然な感情表現を阻害してしまっているという点です。では、どうすれば自分を責めすぎず、より健全な関係を築けるのでしょうか。
まず重要なのは、「完璧な対応」への執着を手放すことです。
ある37歳の男性クライアントは、このような気づきを得ています。
「以前の私は、デートの時も仕事モードでした。『この話題を出したら、次はこう展開して…』って、まるでプレゼンの資料を作るみたいに計画を立てていた。でも、そうやって準備した会話って、どこか不自然なんですよね。今は『失敗してもいいや』って思えるようになって。むしろ、予定通りに行かないことで生まれる自然な会話の方が、お互いのことを知るいい機会になることも多いんです」
また、自分の感情に正直になることも重要です。
完璧な関係を求めるあまり、本当の気持ちを押し殺してしまっていませんか?これは意外と多くの方が陥りやすい傾向です。
ある36歳の女性クライアントは、印象的な経験を語ってくれました。
「私、付き合って3年になる彼氏がいるんです。でも、『大人の女性なんだから』って思いこみが強くて、素直に甘えられなかった。『かわいい』って言われても、照れ隠しに『もう、そんな歳じゃないでしょ』って否定してしまう。そんな日々が続いて…ある日、彼から『最近、君の本当の気持ちが見えなくなった』って言われたんです」
このケースは、「理想の大人の女性像」に縛られることで、かえって関係性を危うくしてしまった典型的な例と言えます。
誰かに愛されるために、完璧である必要はない。
これは、私がカウンセリングで最も強調している点の一つです。完璧な人間など、どこにもいません。それは、あなたの恋人も、SNSで見かける「理想的なカップル」も同じことです。
ある42歳の男性経営者は、こんな気づきを得ました。
「僕は常に『リーダーとして、成功者として、完璧なパートナーとして』という役割を演じていました。でも、ある日、体調を崩して数日寝込んでしまって。その時、彼女が何も言わずにずっと側にいてくれたんです。具合を聞いてくれたり、スープを作ってくれたり。そこで初めて気づいたんです。彼女は僕の『完璧な姿』を求めているんじゃなくて、ありのままの僕を受け入れてくれていたんだって」
この経験は、「完璧である必要はない」ということを、身をもって教えてくれる貴重な例です。むしろ、弱さや不完全さを見せ合えることこそが、関係性を深める重要な要素となるのです。
「理想のコミュニケーション像」が私たちを苦しめる
SNSにあふれる”理想のカップル”の罠。
現代社会において、SNSが私たちの価値観に与える影響は、想像以上に大きなものとなっています。特に恋愛観については、その影響が顕著に表れます。
ある28歳の女性カウンセラーは、クライアントたちの共通した悩みについて、こう分析しています。
「最近の相談で多いのは、『インスタグラムで見る幸せそうなカップルと比べて、自分たちの関係は退屈に感じる』というものです。でも、考えてみてください。SNSに投稿されるのは、その人の人生の中で最も輝いている瞬間のほんの一部。それを見て『私たちもあんな風でなければ』と思い詰めるのは、あまりにも酷な比較ではないでしょうか」
この指摘は非常に重要です。SNSで目にする「理想的な関係性」は、実際の生活のごく一部を切り取ったものに過ぎません。しかも、その多くは入念に演出され、編集された「ベストショット」なのです。
ある33歳の女性インフルエンサーは、意外な告白をしてくれました。
「フォロワーの方からよく『理想的なカップル』って言われるんです。確かに投稿を見返すと、素敵な思い出ばかり。でも実際は、彼と喧嘩することだってあるし、お互い疲れて無言で過ごす日だってある。ただ、そういう日常的な場面は投稿しないだけなんです。時々、『みんな私たちの投稿を見て、プレッシャーを感じているかも』って罪悪感を覚えることもあります」
この告白からも分かるように、SNSで見る「理想的な関係性」は、現実の一側面でしかありません。それを基準に自分たちの関係を評価してしまうことは、大きな落とし穴となり得るのです。
比較が招く自己嫌悪のループ。
SNSによる比較は、往々にして負のスパイラルを生み出します。ある31歳の男性は、こんな経験を語ってくれました。
「友人のSNSを見ると、毎週末どこかにでかけていて、おしゃれなレストランで食事をして、記念日にはサプライズ…。一方、うちは共働きで疲れていることも多くて、休日は家でゆっくり過ごすことが多い。そんな現状に焦りを感じて、無理して外出を提案したり、予算オーバーなプレゼントを用意したり。でも、そうやって背伸びをすればするほど、関係が苦しくなっていったんです」
誰もが感じる”こうあるべき”というプレッシャー。
SNSがもたらすプレッシャーは、私たちの生活のあらゆる場面に影響を与えています。特に気になるのは、「いいね」や「シェア」の数によって、自分たちの関係性の価値を測ろうとしてしまう傾向です。
ある27歳の女性は、このような苦い経験を語ってくれました。
「彼と付き合って2周年の記念日の投稿をしたんです。でも、友達のアニバーサリー投稿と比べて『いいね』の数が少なくて…なんだか私たちの関係って、周りから見てあまり羨ましがられるものじゃないのかなって。そう考え始めたら、どんどん自信がなくなっていって」
この例は、SNS時代特有の新しい形の自己評価の歪みを示しています。かつての「周囲の目」は、今や「いいね」の数という具体的な数値として現れるようになりました。それは時として、関係性を数値化し、序列化しようとする危険な傾向を生み出すのです。
別の34歳の男性クライアントは、こんな悩みを抱えていました。
「プロポーズの様子をSNSにアップしている友人を見て、プレッシャーを感じています。みんな凝った演出で、サプライズ要素も満載で…。でも正直、そんな大げさな演出は僕らしくないんです。かといって、シンプルなプロポーズじゃ、彼女が喜んでくれないんじゃないかって」
この悩みの根底にあるのは、「こうあるべき」という固定観念です。SNSを通じて広まる「理想的なプロポーズ像」が、個人の本来の希望や価値観を押しつぶしてしまうケースが増えているのです。
理想を求めるほど、関係はぎくしゃくする。
興味深いことに、理想の関係を追求すればするほど、実際の関係性が悪化してしまうというパラドックスが存在します。ある39歳の女性カウンセラーは、長年の経験からこう分析します。
「完璧な関係を目指そうとすると、どうしても『今の関係は不十分だ』という否定的な視点が強くなってしまいます。その結果、お互いの良い部分よりも、足りない部分に目が行きがち。そうすると、自然とコミュニケーションも批判的なものになっていくんです」
この指摘は、多くのカップルの経験と重なります。ある32歳のカップルは、こんな気づきを共有してくれました。
彼女:「私たち、付き合い始めた頃は本当に自然体だったんです。でも、周りの友達の恋愛を見てるうちに、『もっとこうあるべき』って考えるようになって」
彼:「そうそう。デートだって、最初は家で映画見るだけでも楽しかったのに、なんか『もっとお洒落なことをしなきゃ』って焦るようになって」
彼女:「結果的に、お互いに無理をし始めて…関係が段々とギクシャクしていったんです」
このカップルの例は、「理想の追求」が持つ危険性を如実に示しています。彼らは、その後カウンセリングを通じて、自分たちらしい関係性を取り戻すことができました。
理想を手放すための具体的なステップ
“完璧じゃなくていい”を自分に許す練習。
理想を手放すというと、何か後ろ向きな印象を持つかもしれません。しかし実際は、それは自分自身をより深く理解し、受け入れるための積極的なプロセスなのです。
ある35歳の女性経営者は、このような体験を共有してくれました。
「私、仕事でも恋愛でも、いつも120%の結果を求めてきたんです。でも、あるとき心療内科の先生に『完璧を目指すことで、どれだけのエネルギーを消耗していますか?』って問いかけられて。その時初めて気づいたんです。私は『完璧であること』に囚われるあまり、本当に大切なものを見失っていたんだって」
この気づきは、彼女の人生の転換点となりました。彼女は次第に、自分に対して「ちょっとくらい失敗してもいいんだ」という許容を持てるようになっていったのです。
自分の価値観を再確認するワーク。
理想を手放すプロセスで重要なのは、自分自身の本当の価値観を見つめ直すことです。SNSや世間の価値観に流されるのではなく、自分にとって本当に大切なものは何かを、じっくりと考える時間を持つことが大切です。
ある41歳の女性カウンセラーは、クライアントにこんなワークを提案しています。
「まず、紙とペンを用意して、『理想の恋愛』だと思っていることを全て書き出してみてください。その後、一つ一つの項目について『これは本当に私が望んでいることなのか、それとも周りからの期待なのか』と問いかけてみるんです」
このワークを実践した30歳の女性は、驚くべき発見をしました。
「理想として書き出した20個くらいの項目のうち、本当に自分が望んでいたのは3分の1くらいだったんです。『毎週末おしゃれなデート』『記念日の大きなサプライズ』…それって、SNSで見る『素敵なカップル』の真似をしようとしていただけかもしれないって気づきました」
同様の気づきは、多くのクライアントに共通しています。ある37歳の男性は、こう語ります。
「僕が本当に大切にしたかったのは『疲れた時に心から甘えられる関係』だったんです。でも、男性は常に強くあるべきっていう思い込みがあって。SNSでも『男らしい』振る舞いばかり投稿されるから、自分の弱さを見せることに抵抗があった。でも、それって本当に僕が望んでいた関係性だったのかな…って」
小さな成功体験を積むことで自信をつける。
理想を手放し、自分らしい恋愛を見つけていく過程で重要なのは、小さな成功体験を積み重ねていくことです。一足飛びに完璧な関係を目指すのではなく、一つ一つの小さな変化を認識し、それを喜べる心の余裕を持つことが大切です。
ある33歳の女性は、こんな経験を話してくれました。
「私、彼氏との食事の時も『インスタ映え』を意識しすぎて。でも、ある日思い切って『実は家で二人でカップラーメン食べるのが好き』って正直に伝えてみたんです。そしたら彼も『俺も実はそっちの方が気が楽』って。それからは、無理に外食しなくても、家で一緒にくつろぐ時間が増えて。SNSには投稿できないような質素な食事かもしれないけど、二人の大切な思い出になっています」
この例は、「理想」を手放すことで得られる、新しい形の幸せを示しています。
別の29歳の男性は、このような変化を経験しました。
「プロポーズの準備で悩んでいた時期があって。友達のSNSを見ると、みんな派手なサプライズをしているじゃないですか。でも、彼女のことを考えた時、そういう派手なパフォーマンスより、二人の思い出の場所で静かに想いを伝えたいって思ったんです。実際そうしたら、彼女めっちゃ喜んでくれて。『あなたらしい』って言ってくれました」
相手の”欠点”を愛する心の持ち方。
完璧な人間など存在しない――この当たり前の事実を、私たちは時として忘れがちです。特に、SNSで見る「理想的な姿」に影響されすぎると、相手の「欠点」が目につきやすくなってしまいます。
しかし、ある45歳のカップルカウンセラーは、こんな興味深い指摘をしています。
「長続きするカップルに共通しているのは、相手の『欠点』を受け入れ、時にはそれを愛おしく感じられる関係性を築いているということです。完璧な相手を求めるのではなく、お互いの不完全さを含めて愛し合える。それこそが、本当の意味での成熟した関係と言えるのではないでしょうか」
この考え方は、多くのカップルの経験とも一致します。ある36歳の女性は、このような気づきを得ました。
「彼って、物事を決めるのにすごく時間がかかるんです。レストランを選ぶのも、休日の予定を立てるのも。最初はそれにイライラしてたんですよ。『もっと決断力のある男性がいい』って。でも、あるとき気づいたんです。その慎重さのおかげで、私たちは一度も大きな失敗をしていない。むしろ、彼の特徴のおかげで、私も焦らず物事を考えられるようになったって」
また、別の39歳の男性は、このような経験を共有してくれました。
「妻は感情の起伏が激しくて、よく泣いたり怒ったりするんです。僕は最初、『もっと冷静になってほしい』って思ってた。でも、そういう感情表現が豊かな彼女だからこそ、嬉しい時は心から喜んでくれるし、辛い時は本気で共感してくれる。今では、その『激しさ』が彼女の魅力だって思えるようになりました」
理想を手放したら見えてきた、新しい恋愛のかたち
高すぎる理想を捨てた彼女の物語。
ここで、ある印象的な成功事例をご紹介したいと思います。34歳の女性経営者、仮に彼女をBさんと呼ばせていただきます。
Bさんは、仕事でも私生活でも完璧主義者でした。企業の経営者として、常に最高のパフォーマンスを求められる立場。そんな彼女の恋愛観も、必然的に高い理想に縛られていました。
「私、『できる女性』でいなきゃいけないって思い込みが強かったんです。仕事もバリバリこなして、彼には常に理解のある彼女でいて、見た目も完璧に整えて…。そういう自分がSNSでいいねをもらえると、それが正しい生き方なんだって思っていました」
しかし、そんな生活を続けるうちに、彼女は次第に疲弊していきました。完璧を求めるあまり、心が休まる時間がなくなっていったのです。
「ある日、彼が『最近の君は本当の君じゃないみたい』って言ってくれたんです。その言葉で、自分が演技をし続けていたことに気づきました。『完璧な恋人』を演じることに必死で、本当の自分の気持ちを見失っていた」
その気づきをきっかけに、Bさんは少しずつ変化を始めます。
“無理をしない関係”が私に幸せをくれた。
「最初は怖かったんです。『ありのままの自分』をさらけ出すことが。でも、彼は意外にも『やっと素の君に会えた気がする』って喜んでくれて。それから、二人の関係は急速に変わっていきました」
具体的には、こんな変化があったそうです。
「休日は必ずどこかにでかけなきゃって思っていたのを、たまには家でダラダラするのもありかなって。仕事の愚痴を言うのは格好悪いって我慢してたのを、素直に共有するようになって。見た目だって、すっぴんの日があってもいいやって」
そうした変化は、二人の関係性をより深いものへと導いていきました。
相手を信じることで得られた安心感。
Bさんのケースは、多くの方に希望を与えてくれる事例です。彼女はさらにこう続けます。
「理想を手放して、ありのままの自分でいられるようになってから、不思議と相手のことも信じられるようになったんです。それまでは、彼のLINEの返信が遅いだけで『私のことを大切に思ってないのかも』って考えてしまったり。でも今は、『きっと忙しいんだろうな』って思えるようになった。お互いを信頼できる関係って、こういうことだったんですね」
この「信頼」という要素は、実は多くの成功カップルに共通して見られる特徴です。ある43歳の男性は、このような経験を語ってくれました。
「妻とは、付き合い始めて15年になります。最初の頃は、『男は常にリードすべき』『収入は自分の方が上でないと』みたいな固定観念に縛られていました。でも、そんな価値観を手放してみたら、むしろ二人の関係は強くなったんです。妻の方が稼ぎが良い時期もあったし、僕が落ち込んでいる時は彼女に支えられた。そういう経験を重ねるうちに、お互いを心から信頼できるようになっていったんです」
自分らしさを受け入れる恋愛の魅力。
「理想」を手放し、「自分らしさ」を受け入れることで見えてくる新しい景色。それは、決して妥協や諦めではありません。むしろ、より深い絆を育む可能性を秘めているのです。
ある38歳の女性カウンセラーは、自身の経験をこう語ります。
「私自身、昔は『理想の恋愛』に囚われていました。でも、カウンセリングの仕事を通じて、多くのカップルと関わるうちに気づいたんです。長く続くカップルに共通しているのは、『自分たちらしさ』を大切にしている点。SNSの『いいね』の数とか、世間の価値観とか、そういうものに振り回されない強さを持っているんです」
そして、彼女自身の恋愛も、その気づきとともに変化していきました。
「今の主人とは、世間の基準からすると『地味』な付き合い方かもしれません。派手なデートもしないし、SNSにも投稿しない。でも、お互いの『ありのまま』を受け入れ合える関係って、こんなにも心地良いものなんだって実感しています」
完璧である必要なんてない――恋愛の本質はもっと自由
幸せな恋愛を見つける鍵は肩の力を抜くこと。
これまで多くの事例を見てきましたが、そこから見えてくる一つの真実があります。それは、「完璧な恋愛など存在しない」という、シンプルでありながら深い気づきです。
むしろ、その不完全さの中にこそ、かけがえのない魅力が隠れているのかもしれません。肩の力を抜いて、もっと自由に、もっと自分らしく恋愛と向き合う。そんな姿勢が、実は最も大切なのではないでしょうか。
“理想を手放す”が幸せへの第一歩。
ここで強調しておきたいのは、「理想を手放す」ということは、決して「諦める」ということではないという点です。それは、自分らしい愛し方を見つけるための、新しい扉を開く第一歩なのです。
私のカウンセリングでは、そんな「自分らしい恋愛」を見つけるお手伝いをさせていただいています。最初は不安や戸惑いを感じる方がほとんどですが、一緒に考え、一緒に歩んでいくうちに、必ず新しい可能性が見えてくるはずです。
プライドを活かして、もっと自分らしく愛そう。
プライドは、必ずしも邪魔者ではありません。それを上手く活かすことで、より豊かな関係性を築くことができます。大切なのは、そのバランスを見つけること。完璧を求めすぎず、かといって自分を見失わず、その中間点を探っていくことです。
ある31歳の女性クライアントは、最近このような気づきを得ました。
「私、仕事でプライドを持っていることは、決して悪いことじゃないって分かったんです。むしろ、そういう自分の一面も含めて受け入れてくれる人と出会えたからこそ、今の関係が築けているのかもしれません。大切なのは、プライドと上手く付き合っていくこと。それは、カウンセリングで学んだ大きな気づきの一つでした」
あなたの恋愛は、あなたのペースでいい。
最後に、あなたに伝えたいことがあります。
恋愛に正解も完璧もありません。あなたの感じる幸せこそが、最も大切なものなのです。理想に縛られることなく、自分らしい恋愛を見つけていってください。
その道のりで迷いや不安を感じることは、とても自然なことです。私のカウンセリングを訪れる方々も、最初は皆、同じような気持ちを抱えていました。でも、一歩一歩前に進んでいくうちに、必ず新しい景色が見えてくるはずです。
理想に縛られない、もっと自由で幸せな恋愛は、必ずあなたの手の届くところにあります。そこに至る道筋を、私たちで一緒に探していけたらと思います。
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