「私、また言っちゃいました…」
先日、ある女性から相談を受けました。40代の営業職、奈緒さん(仮名)です。
奈緒さんは長年の営業経験がありながら、どうしても抱え続けている悩みがありました。それは「つい本音が口をついて出てしまう」こと。
「お客様の要望が無理筋だとわかっているのに、その場では『検討します』と言えず、『それは難しいですね』と言ってしまうんです。後で上司に『もう少し婉曲に言えなかったの?』と指摘されることも…」
奈緒さんの目には、諦めと自己嫌悪が混ざったような感情が浮かんでいました。💭
「率直なのは悪いことじゃないのに、なぜ私だけが責められるの?」という思いと、「でも仕事なんだから、もっと上手に立ち回らなきゃ」という葛藤。
この気持ち、とてもよくわかります。誠実に生きようとする人ほど、「本音と建前の使い分け」に苦しむものなのです。
社会人として「空気を読む」ことを求められる一方で、「自分らしさを失いたくない」という気持ちも大切。特に営業の現場では、この葛藤が日常的に起こりがちです。
でも、それは決して奈緒さんだけの問題ではありません。むしろ、そんな率直さこそが、適切に活かせば大きな武器になるのです。
【💡行動ヒント:自分の「率直さ」を否定せず、まずは長所として認めてみましょう。📎理由:自分の特性を受け入れることが、適切な活用法を見つける第一歩になります】
営業先で直球発言…なぜ相手が引いてしまったのか
奈緒さんが最近経験した出来事は、こんな場面でした。
大手企業への提案の場で、クライアントが「御社の商品は良いのですが、もう30%ほど値下げできませんか?」と言ってきたとき。
普通なら「検討させていただきます」と言うところを、奈緒さんは思わず「それだと弊社の利益がほぼなくなってしまうので、難しいです」と答えてしまったのです。
その場は気まずい空気になり、上司からは後で「もう少し余地を残した言い方があったのに」と指摘されました。
「でも嘘はつきたくなかったんです。検討する余地なんてないのに、あるふりをするのは…」と奈緒さん。😢
実はここに、「本音」の伝え方における重要なポイントがあります。
相手が引いてしまう理由は、本音を言ったこと自体ではなく、相手の「体面」や「関係性の継続」への配慮が感じられなかったからなのです。
ビジネスの場では、「事実」だけでなく「関係性」も同時に扱っています。つまり、何を言うかだけでなく、どう言うかが重要なのです。
これは単なる処世術ではなく、人間関係の機微に配慮するという、より高度なコミュニケーションスキルと言えます。
【💡行動ヒント:相手が引いてしまった場面を思い出し、「内容」と「伝え方」を分けて考えてみましょう。📎理由:問題の本質を見極めることで、自分の率直さを活かしながらも、より効果的な伝え方のヒントが見つかります】
本音と建前は”ウソ”ではなく”スキル”
「でも結局、本音を抑えろってことでしょ?」
奈緒さんのこの言葉に、多くの方が共感するのではないでしょうか。
でも、ちょっと視点を変えてみましょう。本音と建前の使い分けは、「ウソをつく」ことではなく、「両者のニーズを満たすためのスキル」なのです。
例えば、先ほどの値下げ交渉の場面。本音(30%の値引きは無理)を伝えつつも、関係性を保つ言い方はあります。
「30%は難しいのですが、どのようなご予算の課題があるのか教えていただけますか?別の形でお役に立てる可能性もあるかもしれません」
この言い方なら、率直さを保ちながらも、相手の立場を尊重し、対話の余地を残しています。💡
日本文化における「建前」は、単なる虚偽ではなく、集団の調和を保つための知恵でもあります。それは「相手への配慮」と「関係性の維持」という社会的機能を持っているのです。
実は、最も信頼される営業パーソンは、「いつも本音だけを言う人」でも「常に相手に合わせる人」でもなく、「誠実さと円滑さのバランスが取れている人」なのです。
奈緒さんの率直さは、そのバランスを取るための貴重な土台になります。
【💡行動ヒント:「本音」と「配慮」を両立させる言い回しをいくつか自分用にストックしておきましょう。📎理由:咄嗟の場面でも使える「自分の言葉」があると、本音を抑え込まずに適切に表現できるようになります】
率直さを活かす「ひと言クッション」テクニック
奈緒さんのような率直な方が、自分らしさを保ちながらもビジネスで成功するには、「ひと言クッション」が効果的です。
これは簡単に言えば、本音を伝える前後に、相手への配慮や関係性への意識を示す言葉を添えるテクニックです。
例えば:
「大変申し訳ないのですが、」(前クッション)+「その条件では難しいです」(本音)+「ただ、別の形でご要望に応えられないか考えてみましょう」(後クッション)
このような言い方をすると、同じ「難しい」という本音でも、相手の受け取り方が大きく変わります。💭
私が営業時代に使っていた「クッション言葉」をいくつか紹介します:
- 「ご期待に沿えず申し訳ありませんが…」
- 「率直に申し上げますと…」
- 「~という点は難しいですが、代わりに~ならご提案できます」
- 「お気持ちはよく理解できます。その上で…」
こうした言葉は、決して本音を曲げるものではなく、むしろ本音を効果的に伝えるための「包装紙」のようなものです。
奈緒さんは試しにこのテクニックを使ってみたところ、「相手の反応が明らかに違った」と報告してくれました。本音を言いながらも、会話が続くようになったのです。
【💡行動ヒント:次の商談前に、起こりそうな難しい場面を想定し、「ひと言クッション」付きの返答を準備しておきましょう。📎理由:事前準備があると、突発的な状況でも慌てずに適切な言葉を選べるようになります】
味方が増えると、自分らしさがもっと輝きだす
奈緒さんとの最後の面談で、彼女はこう言いました。
「不思議なんです。本音を抑えるんじゃなくて、伝え方を工夫するだけで、こんなに反応が変わるなんて」
彼女は、「クッション言葉」を使い始めてから、徐々にクライアントとの関係が良くなっていくのを感じたそうです。
「以前は『あの人は言いたいことをズバズバ言う』と警戒されていたけど、今は『率直だけど話しやすい』と言われるようになりました」
これこそが、本音を「抑える」のではなく「活かす」ということなのです。
実は、奈緒さんの率直さは、ビジネスの世界でとても貴重な資質です。多くの人が本音を言えず、問題を先送りにする中で、誠実に向き合える人は信頼を勝ち取ります。
ただ、その率直さを「生のまま」ではなく、「相手に届く形」に整えることで、その価値はさらに高まるのです。📎
そして何より、自分の本音を大切にしながらも、相手との関係も守れるようになると、心理的な負担が格段に減ります。「本音か建前か」という二項対立から解放され、もっと自由に自分らしく振る舞えるようになるのです。
奈緒さんの顔から自己嫌悪の色が消え、代わりに自信が戻ってきたのを見て、私はとても嬉しく思いました。
「本音を言う自分」と「仕事ができる自分」は、決して相容れないものではありません。むしろ、その両方が融合したとき、あなたの個性は最も輝くのです。
【💡行動ヒント:率直に意見を言った後で、相手の反応が良かった場面を思い出してみましょう。どんな言い方をしたか、なぜ上手くいったのかを分析してみてください。📎理由:成功体験を意識化することで、自分の強みが明確になり、自信につながります】
あなたの率直さは、決して捨てるべき欠点ではありません。少しの工夫で、それは他の人にはない強力な武器になります。
「伝え方」を意識するだけで、あなたの本音はより多くの人に届き、より多くの共感を生み出すでしょう。そして、それはビジネスの成功だけでなく、あなた自身の心の安定にもつながっていくはずです。
本音を武器に、もっと自分らしく、もっと自信を持って、営業の世界で輝いてください。
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