「今日行くから!今どこ?」
スマホの画面に浮かび上がった文字を見た瞬間、心臓がドクンと跳ねました。
ほんのさっきまで、私はお気に入りのカフェでラテを飲みながら、のんびりとした時間を過ごしていました。なのに、このたった一行のメッセージが、その穏やかな時間を一瞬で終わらせてしまいました。
義母からの連絡は、いつも突然です。前触れもなく、「今日行くからね」と決定事項のように伝えられます。私の都合なんて考慮されていません。「どこ?」という言葉の裏には、「すぐに対応してね」という無言の圧力が滲んでいる気がしました。
結婚してからというもの、義実家との付き合いはまるで「義務」のように続いていました。週末になれば当然のように呼ばれ、何かと理由をつけて集まりが開かれます。行けば行ったで、長時間の拘束です。義母の話に相槌を打ちながらも、頭の中では「いつ帰れるだろう」と考えている自分がいました。
最初の頃は、私も「これが普通なのかな」と思っていました。結婚すれば義実家と親しく付き合うもの。嫁というのは、こうやって夫の家族に馴染んでいくもの。そう信じていましたし、周りの友人たちも「嫁なんだから仕方ないよね」と言っていました。でも、時間が経つにつれて、私の中に少しずつ違和感が募っていきました。
夫と二人で過ごす休日を楽しみにしていたのに、気がつけば義実家に呼ばれる週末ばかりです。自分の予定を優先したいと思っても、「いい顔をしなきゃ」「関係を悪くしたくない」と思うと、つい足を運んでしまいます。そして帰るころには、心も体もぐったり疲れ果てていました。
「義実家との距離を少し減らしたいな…でも、どうやって?」
角を立てずに、でも確実に、自分の時間を守る方法を探し始めました。
「無理して会うのが当たり前?」——自分の気持ちに気づく瞬間
義実家に行くとき、私はいつも「笑顔」を作っていました。
義母が話すことに適当に相槌を打ちながら、時々「そうですね」と返していました。でも、ふと気がつきました。私の笑顔は、決して心からのものではありませんでした。義実家のリビングでみんなが和やかに話している時間も、私はどこか上の空で、時計ばかり気にしていました。
「なんで、こんなに気疲れするんだろう?」
そう思った瞬間、心の奥底に押し込めていた違和感が、急に浮かび上がってきました。
義実家に行くのが嫌だとはっきり言えるわけではありません。でも、義母の何気ない一言にモヤッとしたり、帰宅後にどっと疲れたりする自分がいました。それなのに、誘われれば断れず、当たり前のように足を運んでしまいます。
考えてみれば、ずっと「義実家に行くのは当然」と思い込んでいました。「嫁なんだから、関係を良好に保たなければ」「誘いを断ったら、嫌な嫁だと思われるかも」そんな思いが、自分を縛っていたのかもしれません。
でも、本当にこれは「当たり前」なのでしょうか?
結婚したからといって、夫の家族と四六時中付き合わなければならない決まりなんてないはずです。もし私が「また今度にします」と言ったら、何か大きな問題が起こるのでしょうか?
そんな疑問が心に芽生えたとき、初めて「無理に付き合わなくてもいいのかもしれない」と思えました。義実家のソファに座る自分を俯瞰しながら、「私はここにいたいのかな?」と問いかけてみました。
すると、答えは意外なほどシンプルでした。
「本当は、家でゆっくりしていたかった」
その気持ちを大切にしてもいいのではないかと思いました。そう思えた瞬間、ほんの少しだけ肩の力が抜けた気がしました。
角を立てずに、じわじわ距離を取る方法
いきなり「もう行きません」と言えば、相手を傷つけてしまいます。だからこそ、私は少しずつ、でも確実に距離を取る方法を考えました。
まずは、自分の予定を大切にすることから始めました。義実家から誘いがあっても、その日がすでに埋まっていれば、「すみません、その日は予定があるので」と伝えます。そうすることで、「いつでも行けるわけではない」と自然に認識してもらえるようになりました。
それでも、どうしても誘いを断りにくいときもあります。そんなときは、返事をすぐにしないことで、即答しない習慣をつけました。「確認してみます」と言って、一旦時間をおきます。そうすると、義母も「あれ? すぐには返事が来ないんだ」と気づくようになり、以前ほど頻繁に連絡が来なくなりました。
さらに、「また今度にしましょう」という言葉を意識的に使うようにしました。「最近バタバタしていて、なかなか時間が取れなくて」と伝えると、義母も「忙しそうだし、仕方ないかな」と受け入れてくれることが増えました。
こうして少しずつ距離を作ることで、義実家との付き合い方が変わっていきました。会う頻度が減ったからといって関係が壊れるわけではありませんし、むしろ適度な距離があったほうが、お互いに気持ちよく接することができるようになりました。
夫を味方につけるコツ
夫に義実家との距離を少し置きたいと伝えたとき、彼は最初、ぽかんとした顔をしました。「たまに会うくらい良くない?」と、まるで私が大げさに言っているかのようでした。
私はすぐに反論したかったけれど、ぐっとこらえました。感情をぶつけても、きっと「俺の親なんだから仲良くしてよ」と言われてしまいます。だからこそ、私は少し違うアプローチをすることにしました。
「最近、義実家に行くと、帰ってきてからどっと疲れちゃうんだよね」と、私の気持ちを率直に伝えてみました。「行くこと自体が嫌なんじゃなくて、頻度をもう少し減らせたらいいなって思ってる」と付け加えると、夫は「そんなに負担になってたんだ」と少し驚いた様子でした。
それからは、「今度の週末、少し家でゆっくり過ごさない?」と提案してみました。義実家の話をする前に、まずは二人の時間を大切にする方向に誘導したのです。そうすることで、夫も「確かに、たまには家でのんびりするのもいいかもな」と思い始めてくれました。
夫に義実家との距離の取り方を理解してもらうには、ただ「行きたくない」と言うのではなく、「私はこう感じている」と伝えることが大切でした。時間をかけて話し合ううちに、夫も「無理に行かなくてもいいんじゃない?」と、少しずつ私の気持ちを理解してくれるようになりました。
「いい嫁」をやめたら、気持ちがラクになった
「いい嫁でいなきゃ」という思いは、気がつけば私をがんじがらめにしていました。義実家に行けば、愛想よく振る舞い、義母の話には笑顔で相槌を打ちます。料理を手伝い、片付けも率先してやります。義母が何かを頼めば、できるだけ断らずに応じます。そうやって、少しでも「いいお嫁さん」だと思ってもらえるようにと、無意識のうちに自分をすり減らしていました。
でも、ある日ふと気づきました。私、こんなに頑張っているのに、心から「楽しい」と思えたことが一度でもあったでしょうか?
義母と過ごす時間は、確かに「トラブルがあるわけではない」です。けれど、義母と打ち解けられたという実感もありませんでした。むしろ、気を遣いすぎて帰宅後はどっと疲れるばかりでした。夫と何気ない会話をするだけでホッとする自分がいました。
「いい嫁」をやめたら、義実家との関係が悪くなるのではないか? そう思っていましたが、実際に少しずつ距離を取るようにしたら、不思議と心が軽くなりました。会う頻度を減らしたことで、義母に対して過度な気遣いをすることもなくなり、「また行かなきゃ…」と憂うつになることもなくなりました。
「また今度にしましょう」と言ったって、別に義母は怒りませんでした。「今日は夫だけ行かせますね」と伝えても、それほど問題にはなりませんでした。むしろ、無理に顔を出すより、たまに会ったときのほうが会話も弾みました。
結局、私を縛っていたのは「周りが求める嫁像に応えなければ」という思い込みだったのかもしれません。夫が「俺の親なんだから、そこまで気を遣わなくていいよ」と言ってくれたとき、ようやく肩の力が抜けました。
義実家との関係は、私ひとりで頑張るものではありませんでした。適度な距離感があったほうが、むしろ穏やかに付き合っていけるのだと、今ならわかります。
「いい嫁」をやめたら、義実家との関係が壊れるどころか、むしろラクになりました。そして何より、自分の気持ちを大事にできるようになったことが、いちばんの変化でした。
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